『向田邦子ベスト・エッセイ』
先日、表題の文庫を読了。「父の詫び状」ってどんな話だろ?と思ったのがキッカケで読むことにしました。
向田邦子さんといえば、取材中の航空機事故で亡くなった著名な脚本家、という認識しかなかったのですが、家族と仕事にまつわるエッセイが、とても感慨深かった。。。不思議と、友達の手記を読むかのような親近感。。。性格的にはたぶん、正反対のような気性を感じるものの、本全体から漂ってくる家族(特にお父さん)の愛情深さにしんみりしました。
文字面だけ眺めながら読むと、明治・昭和の頑固で沽券や体裁にこだわる意地っ張りで、時に手を挙げたりもする口うるさい親父に映るお父さん。気弱な子だったら、萎縮してこじんまりと服従してしまいそうだけれど、向田さんは違った。お父さんに従っているように見えて、お父さんと肩を並べる意固地なところがあり、似た者同士の共感をもって父親の専制を眺めている。。。でもそれは、お父さんの深いところに、家族への温かな愛情があることをどこかで感じているから出来たことなんだと感じました。
彼女が、森繁久彌さんと仕事していた頃、森繁さんに「ことばは音である」と教わったことが、とても思い出深く勉強になったと書いておられます。それになぞらえて彼女のエッセイを評するなら、「脚本は行間である」と教わったように思います。書いてあることの行間に隠れた、表立って表現するのが野暮になるような深い想いを、ほんのりと感じさせることこそが、秀逸の書き物なのかもしれません。
仕事に向き合う向田さんの心構えで、強く共感した部分は以下。
ーーそういう時、私は、少し無理をしてでも、自分の仕事を面白いと思うようにしてきたような気がする。
女が職業を持つ場合、義務だけで働くと、楽しんでいないと、顔つきが険しくなる。態度にケンが出る。
どんな小さなことでもいい。毎日何かしら発見をし、「へえ、なるほどなあ」と感心をして面白がって働くと、努力も楽しみのほうに組み込むことが出来るように思うからだ。私のような怠けものには、これしか「て」がない。ーー(p.286より)
いつも険しい顔をして働いている気がするので、今日からこの心持ちは即実践だな(笑)!
【国家の罠】 次の読書は、このご時世をどう理解すべきか…の頼りに、佐藤優さんの『国家の罠』を読んでみようと思っています。佐藤さんの本も初挑戦。さぁて、相性はいかに?!
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