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2022年5月13日 (金)

『老人支配国家 日本の危機』

20220509_8  遅読の私にしては珍しく、表題の新書を、一気呵成にほぼ一日で読了。
 本書は、主に「文藝春秋」に掲載された単発記事を、年代もバラバラに並べ替えて編集された書籍です。おおむね2013年から2020年の約7年間に掲載された全11編の寄稿文や対談。タイトルはいかにも、日本の少子高齢化に警鐘を鳴らすかのような印象ですが、そのような一貫性はありません。
 むしろ、1991年のソ連崩壊という世界の地殻変動に始まり、2016年のブレグジット、2017年のトランプ大統領誕生といった大きなうねりの中で、エリート主義とポピュリズムに二極化する世界を論じる部分の方が多かったような。。。
 ただ、トマ・ピケティ氏が、資本と国民所得という経済指標の地道な調査によって歴史を読み解いたように、本書の著者のエマニュエル・トッド氏は、人口動態と家族システムという統計を指標として歴史を読み解いているところが新鮮でした。
 近年は、何の統計データを見ても信頼が置けず、人口すら現実には正確に把握されていないように思えますが、それでも出生率や死亡率は、数ある統計データの中では比較的正確な部類には入るのでしょう。夫婦が子どもを二人以上作らないと、やがては人口が減っていくことは、小学生でも分かります。著者の主張するように、出生率を上げるための社会制度を整えることは、安全保障政策以上に、日本の存亡に直結する最優先課題であることは、先日イーロン・マスク氏がTwitterで「日本はいずれ存在しなくなるだろう」とつぶやいたことにも象徴されます。
 とはいえ、自然発生なのか恣意的なのかはともかく、宇宙世紀のコロニー落としのように(^^;)発生したコロナ禍は、地球上に人間が増えすぎていることの警鐘のようでもあり、一国の経済成長のために、安易に人口を増やしていいものなのか、(今の日本での生活レベルを下げない範囲でのエネルギー消費で)地球上の最適人口がどれくらいなのかというのもよくわかりません。
 著者は、日本も自国防衛のために核を持つべきだとも言っていますが、もはや核保有すら戦争回避の切り札にはなり得ないことが分かった今、むしろ何とかして減らして全廃を目指す道筋を考えるべきなのでは…と、ナイーヴに考えてしまいます(ミサイル一発でSDGsなんて吹っ飛びますし…T T)。
 個人的にインパクトがあったのは、ユーロの存続が危ういという指摘でした。各国の長い歴史や文化より、21世紀的な宇宙視点で考えれば、EUの理念はもっと広がっていくべきものと思えるのに、そう単純なものじゃない、という事実を突きつけられました(かと思えば“簡易版EU”構想?!…現EU加盟国は27)。
 逆に一番共感した部分は、8つ目の記事の最後(p.183)の一節。
ーーーポピュリズムを安易に否定しても無意味です。ポピュリズムは、エリートが民衆の声に耳を傾けるのを拒否し、国民を保護する国家という枠組みを肯定的に引き受けない時に台頭してくるものだからです。逆に言えば、ポピュリズムは、エリートが民衆の声を受けとめさえすれば、自ずと消滅するものなのです。ーーー
 “人は支え合って生きている”という当たり前のことを、深いところで踏まえたリーダーを選べる市民を増やさないと、本当に“日本も世界も、いずれ存在しなくなるでしょう”^^;;;;;。

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