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2022年6月30日 (木)

『競争の番人』

20220620_1  先日たまたま最後の2話を観たドラマ「元彼の遺言状」。最後の2話だけでは、元彼の遺言の謎がサッパリわかりませんでしたが、「このミステリーがすごい!」大賞受賞作(満場一致!)ということで、著者の新川帆立さんについてネット検索したら、それはそれはユニークでものすごいプロフィールだったもので、俄然興味が湧き、『競争の番人』という作品を衝動買い。独占禁止法と、公正取引委員会の活動には、大学院時代にとても関心が湧いたのもあり、興味津々で読み始めました。

 正直なところ、「競争って本当にイイことなんだろうか?」という疑問も胸に抱えているので、著者の独禁法観を知りたく思い、一気に読みました♪ 見渡せば、世の中、“カルテル”まがいや“優越的地位の濫用”ばかりに見えなくもなく、“独占”に胡坐をかいた不公正は良くないとは思うものの、良くないものになってしまうのは、寡占した者の心根の問題なのでは…?とも思いーーー^^;。
 先月は、食べログと焼肉チェーン“韓流村”をめぐる裁判で、“優越的地位の濫用”が認定されました。フェアか否かというのは、一般人にも比較的感じ取りやすいから、熾烈な競争社会で公正取引委員会がどんな風に目を光らせて、不公正行為にどう対処しているのか、具体的な物語に落とし込んでいただいて面白かった!
 とても読みやすく軽いテイストで、エンタメに徹してドラマ向きに描かれているなぁ~というのが第一印象。立入検査前には、刑事さんのようなこともするんだ~と驚きました。独禁法47条1項4号違反が、行政の縦割りに起因して適用されたことがない…というのはホントなんだろうか??
 「競争はいいことなのか?」という私の疑問に対して、p.178の3行目の一文が、独禁法の理念として凝縮されていたように感じました。
ーーー「王者にあてがわれた幸せで、本当に幸せなのか。」ーーー
「私たち一人ひとりが、不十分でも弱くても、意思をもって動く。勝ったり負けたり、痛手を負ったり。経済全体としては効率が悪い方法かもしれない。けれども、人任せにしていてはいけない。」(p.253)
 う~む、わからなくはない。選択肢は多い方がいいのもわかる。資本主義社会で不公正が許されてはいけないのもわかる。
 ただ、通信やエネルギーや公共交通機関やインフラ事業など、公共福祉的な観点では、独占だからこそ可能になることも多々ありそうで、難しい。。。
 一方、先日のNHKニュースで、足立区の生物園にいるカンガルーのオスが、これまで繁殖に消極的だったところ、飼育員さんがライバルのオスを演じて敢えて負けてみせたら、自信をもって(?)メスにアプローチするようになったとか。。。競争にはこういう効果もあることはあるんですよねぇ~。でも、競争に負けた方はとっても生きづらい…^^;;。本作中、「恋愛も競争ですよね」というセリフがありましたが、まさに。

 目下の独禁法まわりで興味深いのはやはり、巨大IT企業をめぐる問題や、二面市場化の動向だろうと思いつつ、政府が掲げる「新しい資本主義」においても公正な競争は称揚されると考えると、複雑な心境です。主人公の楓は、いつも外れクジを引き、お人好しでTOPに立てない性格として描かれていましたが、競争があれば必ず敗者が生まれ、“弱くても戦”わざるをえない。必ず敗者を生むシステムでも、消費者に利益があればいいのかが、よくわかりません。勝った側はフィーチャーされるけれど、負けた側のその後は取沙汰されないのが常だから。。。
 ともあれ、本作をきっかけに、公正取引委員会の活動に、多くの人が関心を持つようになるだろうことは確か!
 “白熊”さんと“小勝負”くんのその後も気になるところ^0^。続編、あるかな~?♪

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