『鏡の背面』
友人にご紹介いただいた、篠田節子さんの『鏡の背面』という本を、先日読了。
以下、ネタバレ注意ーーー。
いわゆる“毒婦”の心の中なんて覗く機会はないけれど、本書内で文字として明かされたソレは、おぞましく不快極まりないものでした。世の男女とも、つい打算で動いたり、多少策略めいたことを考えることはあるのでしょうが、本書に登場する明美のように、用意周到に緻密に、良からぬことを準備実行する人が現実にいるとしたら、空恐ろしい。。。彼女の行動の謎が明かされるまでは、「何か深い事情があるのでは…」とか、「何か違う捉え方が出来るのでは…」と、なんとか彼女を悪人にしない物語を推測して読み進めたのですが、結局のところ、すべてが彼女の思惑通りに進んでいたと知り、唖然とさせられた、というのが正直なところ。
人のいい男性をさんざん喰いモノにしてきた彼女が、女性としての賞味期限切れを自覚し(^^;;)、最後の最後にターゲットにしたのは、“日本のマザー・テレサ”と言われるほどの小野尚子という女性。元は令嬢だったその人が、不運な女性たちのシェルターのような場所の管理人になり、フィリピンの片田舎にまで赴いてボランティアとして奉仕活動にのめり込んでいく動機や経緯がいまひとつわからなかったものの、明美が尚子になり変わる中で、おどろおどろしい彼女の心が、聖女のように変容していく様は、信じがたい不可思議さでした。
本書には、不運な女性の一人として、母親が入信した宗教の霊感商法的な活動の被害者となった娘が登場します。このくだりは今読むと、オカルティックでありながらも妙に説得力があり、“集団ヒステリー”のような一種の洗脳や催眠作用が人の心に及ぼす効果の尋常なさが、いかに日常を蝕むかを如実に表現しています。狭い世界だけの価値観に縛られ、客観性を奪われた人間が陥りがちな判断力の低下を痛感させられます。
この物語の謎めいた展開を追う二人の女性は、ひとりはこの“新アグネス寮”の代表となった優紀、もうひとりは元代表だった(明美扮する)尚子をインタビューしたことのあるフリーランス・ライターの知佳。“タッグを組む”というほど強い絆で協力し合うわけではないのだけれど、お互いの“閉じられた世界”をこじ開ける存在として、相互に次第に信頼を高めていく雰囲気がせめてもの救いでした。
終盤まで、心の闇の淵を覗き込むような恐怖を感じつつ、次第に明らかになっていく謎を追う面白さに、つい読み進めてしまった感じ^^;;。人の心は、巡り合わせによって、意外にたやすく傷ついたり形を変えてしまう脆いものであるからこそ、いつも“良き者”であろうとする意志が大切だと思わされました。(学生時代にマザー・テレサの生の言葉を聴き、修道女に憧れたりしたこともありましたが^^;;、私のような軟弱者には到底務まる仕事ではないことも痛感されました…苦笑)。
【読むか読まないか…】 本書のようなテイストの本で気になっているものとして、小池真理子さんの『アナベル・リイ』と、鈴木涼美さんの『ギフテッド』というのもありますが、、、どうしよう。。。
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