『[新版] 悠久の時を旅する』
先週半ば、表題の写真集を読了。
写真集とは言いながら、かなりのエッセイも収められており、見応えも読み応えもある書籍でした。練りに練られた編集が素晴らしい!! 星野道夫さんの本は、『旅をする木』に続き2冊目。
『北極平原に動物を求めて』というシートンのカヌー旅の話や、アドルフ・ミューリーの『マッキンレー山のオオカミ』を繰り返し読んだという星野さんの青少年時代。いつしか、極北の地への憧れが嵩じ、長い長い旅を続けた星野さん。ヘラジカの交尾を撮影するまでに5年を要したとか、カリブーの大移動を延々と追いかけたとか、グリズリーやオオカミとたった一人で対峙したとか、とにかく活動のスケールが非日常。
エスキモーやインディアンやアイヌの人たちの中に、ワタリガラスの創世の伝説があることから、次第に「自分たちはどこから来たのか」という根源的な問いを追いかけるようになっていったとか。日本からカムチャッカ、シベリアを抜け、アラスカ、カナダ、北アメリカへと通じるモンゴロイドの足跡を辿って、村々の長老や酋長に話を聴くことも、ライフワークになっていったようですね。
マーガレット・ミューリーの『Two in the Far North』という本から「一体人生で一番大切なことは何なのだろう」という言葉を引用して、泡沫のような人生と、脈々と続く自然の双方を愛した遠い目をした人ーーー。
写真からもエッセイからも、星野さんの優しい人柄が滲んできましたが、本書の中の「ジリスの自立」というエッセイは、タイトルからしてちょっとオヤジギャグっぽく、星野さんのユーモアと人間らしさを感じさせてくれました。
マッキンレー国立公園内のビジターセンターには、多くの観光客が訪れるそうなのですが、かわいいジリスを見掛けると、すぐにエサをやってしまう観光客が後を絶たないとのこと。そうした観光客の気持ちも分からないではない…と感じつつ、どうしたものかと逡巡する星野さん。そんな中、ある日、とても小さな立て看板を見つけたのだとか。そこにはこう書かれてあったそうです。
ーー…ジリスたちよ! おまえたちは、そうやって人間から餌をもらってばかりいると、だんだん体重が増え、動きが鈍くなり、いつの日かイヌワシやクマの餌になってしまうだろう…ーー
エサをやる観光客を注意するのでなく、エサをもらってばかりのジリスに向けて看板を立てることで、そうした観光客に一考を促すかのようなその文章に、星野さんは笑ってしまったと書かれていました。きっと、共感の気持ちが溢れたんだろうな~と感じました^^。
本書の巻末には、6人の関係者の寄稿文が掲載されています。どれも素敵な一編ですが、個人的に、お母様の文章を本当に興味深く拝読しました。自分の子が、星野さんのように冒険心に富んでいたら、受け止めきれるだろうか…と感じたもので…^^;;。高校生で何カ月も音信不通のまま海外を放浪するとか、ザックを背負ってあちこちの山に籠ってしまうとか、およそ会社員には向かない性格だと感じていたとか、それはそれは心配が尽きぬことだったろうなぁ…と拝察しながら読みました。
中学受験の頃は新聞記者になりたいと思っていたとか、外国への渡航費を貯めるためにお金になるバイトを重ねていたとか、放浪中にメキシコ入りのビザを得るために領事館の前で3日間も粘ったとか、大学をやめたいと言い出したことがあったとか、自分の作品を観てもらうために出版社の編集長の所に押し掛けたとか、それはそれはヤンチャな印象。お母様としては気の休まる時がなかったのでは。。。? それでも結局のところ、そんな彼を終生応援し続けておられたお母様の辛抱強さに打たれました。
ある時、お母様に、「ぼく、小説を書いてみようかと思うんだけれど…」と漏らしていたのだとか。あぁ、星野さんがもし小説に着手しておられたら、一体どんな物語を書かれたのかなぁ~。。。彼が描こうとしていた世界を夢想しながら、そっと本書を閉じたのでした。
【氷点下の朝】昨日は大寒波後で、都内も氷点下2~3℃になりました。公園の噴水は巨大なツララ状態に。。。でも、強い風と雨と寒さで、街全体が洗い流されたかのような清々しい空気。氷点下50℃の北極圏の空気を想像し、厳寒の透明度に思いを馳せました。
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