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2023年12月24日 (日)

『ことり』

20231215_03  先々週、朝イチから大谷翔平選手のドジャース入りに関する会見が行われた日、小川洋子さんの『ことり』という小説を読了。
 大谷選手の一挙手一投足は、いわずと知れたキラキラもので、この会見でも、お見事!と唸るしかないような、人の心を鷲掴みにする感動モノのコメントが多数ありました。「昨日出来なかったことが、今日出来たら嬉しい」という純粋な成長を、素直に愉しみながら生きている。眩しいほどの日向の道を堂々と歩く人そのもの。
 一方、『ことり』に登場する人たちは、誰しもが多かれ少なかれとてもとても狭い世界で生きていて、殊に主人公の「小鳥の小父さん」とそのお兄さんは、まるきり「取り繕えない人たち」。不器用に、代わり映えのない毎日を規則正しく生きることにこそ安心する、“じっと”生きる人たちーーー。
 こんなに対照的な存在を同じ日に目の当たりにし、私の心は動揺しました。
 “影日向”なんて言葉では言い表せないほど隔絶された世界。
 同じ人間なのに、どうしてこんなにも違う場所で違う様相で生きることになるんだろう…。
 切ない切ない小さな世界を生きる小父さんの朴訥さが、
とり”たちの無邪気さとも対照的で、人間って哀切に満ちてるな…と思わざるを得ませんでした。一方、小鳥の中にも、人の目を気にせず明るい所に出て来るのもいれば、一生人の目に触れることなく藪の中でひっそり生きるのもいて、小父さん兄弟はまさに後者。昨日と変わらない一日を過ごすことをモットーとする小父さんにも、胸躍る瞬間や、不可思議な出逢いはあったけれどーーー。

 淡々とした日々を繰り返すことの方が多い毎日でも、裏を返せば平穏で充足しているのかもしれず、生き様は人それぞれ。
 ひとつの静かな命、暗い藪の中で一心に生きる“ことり”を見せられたような、不思議な読後感でした。
(次は、司馬遼太郎さんの『空海の風景』を読んでみようかと思っています。権力を金や飴で買っているような政治家はそもそも信頼できませんが、それを排除できない政治や、数だけに頼った駆け引き・打算を見せられるのに飽き飽きしている昨今、この作品がどう心に迫るのか楽しみです。)

【小説の生まれる場所】本書の著者 小川洋子さんの文学講座について、友人が教えてくれました。言葉を道具にするお仕事をしていながらも、言葉の力の限界と、心の豊かさを心得ているからこその、丁寧なお話ぶりでした。

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